製薬企業への就職を考えている方へ-現実を語ってみますね.
私は新卒で研究職として入社し,その後転職して主に上市後の製品に携わるような部署で勤務している.製品開発の上流から下流,そして市販後の営業活動まで業務を通じて非常に多くの部署と関わることが出来たので,概ね製薬企業で働くとはどういうことかを理解できたように感じる.
外からみた製薬企業というものは,人々の健康に貢献している,医師との癒着や賄賂が横行していそう,比較的高給取り,研究者ってかっこいい,などのイメージではないだろうか.私自身学生時代はそんなざっくりとしたイメージを持っており,製薬企業の研究者になることに憧れを抱いて就活に臨んでいた.
もちろんこれから新卒で製薬企業入社を目指して就活する,また,異業種からの転職を目指すなど状況は様々だと思う.
以下,記載することは私見であるので,参考程度にご拝読いただけると幸いである.
製薬企業の年収は高いのか.働く環境はどうか.
一般的に高給取りであるというイメージは実際に間違っていないと思う.銀行や商社,放送関係の企業は今でも年収は高いが,製薬企業の社員もメーカーの中では受け取る報酬としては高額の方になると思う.
これらのランキングはもちろん職種の違いや役職をどの程度考慮して掲載されているかは注意して見る必要があるが,非管理職で言うと営業手当が存在するMRの方が年収を引き上げている印象であるので,研究開発や本社勤務のような職種は同じ社歴でもより低い印象を受ける.
また,働く環境としてはメーカーの中ではかなり良い方ではないかと思う.
国内でTop10のメーカーであれば,家賃補助などの福利厚生も良く有休も取得しやすい.残業も規制がすすんでおり,ライフワークバランスは個人が意識すれば問題なく調整ができると思う.外資系ではパワハラやセクハラはかなり厳しく取り締まりがされている印象があり,そのようなことをしている人間は生き残れないようなってきている.
研究職の方は元々研究が好きな人が多いので仕事自体に熱意がある人が多い.一方で大学研究者と違い,新規性だけでなく製品開発につながること強く求められるのでただ研究が好きな人はギャップを感じることもある.
開発関連の部署は非常にやることが多いので部門間の連携は不可欠だが,上市というゴールを目指す点では一緒であり,大変だがやりがいを感じることはできると思う.
マーケティング,セールスの部署は如何に売り上げを伸ばすかに燃えており,アグレッシブな人が多い.彼らの仕事がそのまま企業の売り上げに直結するので,前のめりであることは大事だろう.
製薬企業で働くことは安泰なのか?
この業界を目指している方であればご存じだろうが,医薬品の研究開発の成功確率は非常に低く,また原薬の選定から製品の販売承認まで長いと15年程度かかることもあり恐ろしく効率が悪い.しかも開発コストも莫大であり,一つの製品が世に出るまでに1,000億円以上かかると言われる.それでも製薬企業が成り立っているのは,医薬品が人々の健康に必要不可欠なものであるというのが大きな理由となる.景気が悪くなれば,人々は出費を抑え,企業の収益は下落する.一方で医薬品においては基本的に必要な人にしか処方されないので,景気で売り上げが左右されることは少ない.そういうこともあり,製品開発が成功した時の一発が大きいため,ハイリスクハリターンでも成り立っていた.成り立っていた,,というのは製薬企業も様々な要因で売り上げを維持するのが非常に厳しくなってきている.
大きな要因としては下記の2点だろう.
①新薬の開発が年々難しくなっている
②国が医療費削減に際して医薬品にかかるコストの大胆な見直しに着手し始めた
企業も生き残りに必死である.できるだけ効率的に製品開発や販売をするために,組織改革が各社進んでおり,大胆にリストラが進んでいる.営業部門に関して言うと,年々プロモーションコードが厳しくなり,人手が減らされる傾向にある.
研究開発も同様である.できるだけ外注することで効率化を図るどころか,大手はベンチャーなどから見込みのある開発品を買い取り製品化することがほとんどといっても過言ではない.パイプライン(開発中医薬品候補)を見れば一目瞭然なので興味があれば各社HPを覗いてみてもよいだろう.
研究職は元々就職することがかなり狭き門であるにも拘らず,開発フェーズを進めるプロジェクトに巡り合うことは稀であり,上市品に関わること無く引退することはざらである.一発当てれば巨額の売り上げが得られる時代は終わりを迎えつつあり,こちらも各社スリムアップが進んでいる.
...まとめると,働けている間は結構ホワイトですが,リストラは頻繁です.うまく就職出来ても安心せず,転職を見据えてスキルアップしておくことは重要かもしれない.