後輩にせがまれ,先輩は自らの転職経験と顛末を語る.
※特に有益な情報や意見は含んだ記事ではありません。脚色も多分されています。
先日 大学の後輩から転職の相談を受けた。
彼曰く、今の職場は自分の高いスキルを活かせない、給料が見合っていない。彼女ができない、やりたいことができないなど不満たらたらである.
分かる。彼の言い分はすごく分かる。私も転職を決めた理由は似たようなものだった。
上司が話しかけてくる、業務中はスマホが触れない、デスクワークは健康に悪い、上司の筋肉がモリモリで威圧感がある、週5日勤務はしんどい、などである。
幸いにして私はうまいこと転職することができた。
面接では,如何に自分がオンシャに興味があり、ケイエイリネンに共感し、自分が持つスキルをもってしてイノベイションを引き起こし、エクセレントなアジェンダをフィックスできるかを語った。
先方もこちらの経験の浅さが気にはなっていたようだが、「うーん、期待を込めて星3!」と最終的には双方熱い抱擁で入社に至ることができた。
ただ、給料は据え置きであった点は誠に遺憾であるし、週5勤務であることも妥協する他なかった点に関しては労働組合で声高々に訴えて所存である。
そう、転職なんてやろうと思えばできるのだ。彼にいま言えるのはそれだけだ。
一方で彼が聞きたいのはそんなことではないのだろう。
「そんなことが聞きたいのではないのです」
それ見たことか、最近の若者は結論を急ぎすぎる傾向にある。情報過多時代の副作用であろう。
私と12カ月も年が離れる新人類は言葉を早口で紡いだ。
「僕はとても慎重派なのです。私の友人達も賢く手堅く生きる者が多い。今までの安寧をかなぐり捨て、轍も無い、一寸先は漆黒の闇であるかもしれない荒野へ踏だすような向こう見ずは先輩しか知らないのです。」
見たまえ。彼は5つあった唐揚げを私が4つ食べたことにも気づいていない。注意力が三万しか無い証拠である。この愚か者に私の金言は馬の耳に念仏、猫にギガ放題、ジンジャーにエールである。
結果的に先輩が今の職場に満足しているのであれば、私も少しの勇気を持って、「ビズリーチ」と呟きながら転職サイトへの登録ができるのです。どうか、先輩の無謀な旅の行方がどのような結末に至ったか教えてくれませんか?
彼の言動は多少なりとも私の心に致命傷を与えたが、メガネの奥で半分垂れ下がったまぶたの下からのぞく充血した眼は本物である。
紅潮したほっぺたも彼の熱い気持ちを感じさせるのに十分な証である。6本の空き瓶ビールもうんうんうなづいているようだ。
「そうね。まぁ今の職場環境にはとても満足している。上司は中肉中背だし、スマホも多分触っても怒られない。そして何より」
後輩はゴクリと喉を鳴らす。7本目の瓶ビールがか空いた。
「バランスボールに座ったまま仕事ができるのさ。とても健康的な環境だ」
後輩はグラスを片手に目を見開いたまま固まっている。私のあまりの発言の衝撃のあまり微動だにできないのだろう。時が動き出し彼の口から震えた声が漏れる。
「先輩」
「真面目な話どうなんですか?」
彼は幾年も経験を重ねた検事のような佇まいで僕を問い詰める。
うろたえたのは私の方である。転職してどうだったかを聞かれ、概ね満足していることを伝え、さらにはとっておきの具体例までコソッと伝えたのにこの態度。。
私も彼とは相容れないことを悟り、
「そうか、君はそういうやつなんだな。」
と冷たいトーンで告げた後、後輩を残したまま席を立ち、お会計を済ませて店を出た。
本格的な冬の到来を感じる風の冷たさが、人と人とが真に分かり合えることはない事を教えてくれた、そんな夜だった。
ちなみに二件目は焼き鳥屋さんでした。
彼は塩よりタレ派見たいです。